創業者は自分の成功物語を自慢したい

小さな町の成功者

人口が4万人ほどの、小さな町

で大繁盛の大型小売店がありま

す。

安売りが大評判で、強力な集客

力を発揮しています。

週末には県境を超えて隣県からの来店客も珍しくはなく、店はいつも家族

連れでごった返しています。

地元出身の社長は、いまやこの地の名士で、知らない人はいません。

かつては資本も乏しく、零細な個人営業から身を起こした、たたき上げで

苦労人の成功者です。

汗を流してきた苦労人

多くの地域では、多分、このような“地元で愛される”社長さんは様々な分野

にいることでしょう。

地元テレビや新聞にも取り上げられる、ちょっとした有名人社長を見かけ

ませんか?

テレビ取材には、創業期の苦しい時代の暗中模索、試行錯誤、経営危機、

等の困難な体験も赤裸々に語ります。

同時に他方では、熱心にお客への感謝を語り、地元の活性化を説きます。

「お客のため、地元のために、地域のため」という情熱がここまでの成功

を導いてくれた。

最初に挙げた社長も、これを素朴な語り口で訥々と語り、誠実さと謙虚な

印象を与えます。

地元出身の有名人の成功物語です。

前近代的な経営

社長の人柄に触れて、地元内外から入社したという若い社員も少なくあり

ません。

しかしながら、内部を知るにつれ、前記の事実は1つの側面でしかないこと

に気づかされます。

ある時、知人を経由して経営計画の手伝いを依頼され、企業訪問しまし

た。従業員へのインタビューから始め、仕事のプロセスを把握し、長期計

画を提案するためです。

しかし、毎月、訪問するたびに驚きの現実を知らされます。

朝礼で旧軍歌を一斉に歌わせる

一番驚いたのが、複数の社員からの“直訴”のような訴えです。

「従業員が辞めてゆく。独裁的な社長を、ぜひ説得して下さい」

「聞くも涙、語るも涙」の社内の悲惨な実態です。

もはや社長は、社内の誰に対しても聞く耳を持たないとのことです。

外部からスカウトした役員であろうとも。

やむなく、追い詰められた意欲のある従業員は、外部のコンサルタントに

直接助けを求めてくるのです。

社長は外側の人々に対しては、実直な態度で接しますが、社員に対しては

独裁者になっているのです。

不合理な扱いや、非情な規則を知る前に、その実態が分かったことがあり

ました。それは朝礼です。

毎朝の朝礼の最後に、旧日本軍の軍歌を、一部歌詞を変えて自分の会社の

社歌として大声で、一斉に歌わされます。3番まで。

この姿を見て、こりゃ無理だと思いました。

唖然とする独裁経営

一見誠実に見える創業社長には、こうしたワンマン独裁の経営者は少なく

ありません。

休日出勤は当たり前、退職金をなかなか払わない、いきなり減給する、残

業制度らしきものもない、等々。

評判と実態の間には大きなギャップがあります。

それは、地域差でもなく、企業規模の大小でもありません。

創業者だからこそ、よくあるパターンなのです。

なぜ、“たたき上げ社長”はこうなるのでしょう?

本当は成功物語を話したい

一代で財を成した成功社長。

しかし社内に向けた社長の実際の“顔”は別人であることはよくあります。

地元密着なので、不都合な事実や社内事情は封印されます。

すると、ますます社長は増長して、権力支配を強めてゆきます。

これが普通の会社かどうかは、皆さんのご判断に任せます。

ここで申し上げたいのは、創業社長の中には、ウラ・オモテの顔を持って

いて、それを上手に使い分けるスキルを持っている方々がいるということ

です。

本人は無意識でも、長年の経験で、状況ごとに“好々爺”、“善人”、“立身出世の人”を演じてしまう。

支配が好きな創業者は、たくさんの人に自分の成功物語を聞かせるのが大

好きです。

ご自分の成功体験を語ることで、ご自分の人生を認めてほしいのではない

でしょうか。

誰もが、社長を絶賛してほしい。

だからこそ、延々と自分の自慢話を語り続けます。