過当競争になって、初めて差別化が通用する
かつて、首都圏で高級スーパー
の出店が続いた時期がありまし
た。高級スーパーは、一目で普
通のスーパーと違うことが見て
取れます。
大衆的なスーパーでは売られていないような高級で高額な食品や、珍しい
生鮮品が店内に数多く並びます。
店舗にもふんだんにお金をかけています。
床は天然の木材で、壁面には大きな絵が描かれ、天井にはシャンデリアが
輝いています。店舗の内外装も豪華絢爛で、まるでデパートのようなスー
パーです。
従業員は洗練された色鮮やかなユニフォームに身を包み、丁寧な接客を行
っていました。
見るからに想定客層が富裕層であることが分かります。
ところが、これらはほとんど失敗に終わっています。
売れなかったからです。
なぜ売れなかったのか?
価格がほとんど無視されていたからです。
食品市場はまだスーパー不足
高級スーパーの目的は差別化にあります。
しかし、「差別化」が求められるほど、食品市場は成熟してはいません。
食料品市場は、まだ過当競争の段階には至っていないのです。
スーパーは、一見店舗数は多そうですが、実はまだ足りていません。
食料品の推定市場規模は30~40兆円あります。
年商1兆円のスーパー企業が30~40社あってもおかしくありません。
しかし、スーパーマーケット業界の食品の総売上高は、およそ、その半分にも満たないでしょう。
“買い物難民”という言葉も、現状が店不足であることを物語っています。
ワンストップショッピングという便利な機能を持つスーパーは、まだ飽和
状態には達していません。
価格認識はスーパーマーケット事業の大前提
スーパーである以上、価格を無視できません。
大衆品・必需品を低価格で販売するスーパーがまだ不十分なのに、他方で
は、高級品・高額品を中心にした高級スーパーを試みる。
どんなゴージャスなスーパーを営業しようが、それは個人の自由です。
ただしどんなスーパーでも、スーパーマーケットとしての暗黙の了解事項
が求められます。
それは“価格”です。
毎日消費せざるを得ない食料品ですから、値段が高すぎてはいけないとい
うことです。
売り手も気づいていますが、消費者は強固な“価格意識”を持っています。
食料品というものは、特にその価格が許容範囲を超えれば、お客はその店
に対して無意識のうちに抵抗感を持つということです。
多少の付加価値品であっても、常識的な値段を突き抜けると、むしろ反発
感を呼ぶということです。
毎日食べるための、単なる食品なのですから。
ここを軽視したのが多くの高級スーパーの共通点です。
商品の“珍しさ”と“価格”の間に大きなギャップがあり過ぎるということ
です。
高級店の失敗の根底にあるのは、高級店では価格性を無視してかまわない
という暗黙の思い込みです。
食品という実需商品の、その値段には上限があるといってもよいでしょ
う。
冗談のような価格でモノを売れば、どんなビジネスも成立しないでしょ
う。