給与が上がらないのは人災だった

44年前の給与事例

私が中途採用でコンサル会社に入社した時の月給は手取りで15万円でした。

当時、20代後半としては普通の待遇だった気がします。

1978年ころの話です。

他の業界でも、その水準は一般的だったように記憶しています。

高くもなければ安くもない。そんなレベルです。驚くべきことに、

月額15万円の給与は21世紀の今でも続いています。

あれから44年も経過しています。しかも、手取りどころか、支給総額15万円

という事例も珍しくありません。

異常なことです。

いや、異常さをはるかに超えているんじゃないでしょうか。

先進国日本で働いて、その給料が44年前と同じだなんて。

44年前といえばほぼ半世紀昔です。

戦前の話ではありません。

44年前でも、戦後からすでに33年経っています。

日本が先進国入りをし始めた時代です。

他の先進国の詳細を知りませんが、まさか、賃金が半世紀前と同じなんて

ことはないでしょう。

なぜこうなってしまったのでしょう?

経営を見くびった経営者

「失われた30年」とよく言われます。

しかし、実は、失われていたのは40年以上あると見ています。

本来の役割を果たすべき経営者そのものが、40年以上も失われていた

からです。

経営者の必須スキルとは何か?

それは、「売って、売って、売りまくる」ことです。

そのために、最初に3つのMを確立します。

1.マーケット(ターゲット市場)
2.モデル(ビジネスモデル)
3.マーチャンダイジング(商品開発)

この3つの戦略で市場に参入し、シェアを拡大するのです。

昨日よりも、去年よりも、ライバルよりも、もっとたくさん売る。

この使命感が会社の成長を支えてきたのです。

売上を作らなければ、その年の原価も諸経費(一般管理費)も利息も払えま

せん。日夜、売上をアップさせることに汲々としているのが経営者本来の

姿なのです。

それによって、会社は進化してきたのです。

「失われた40年」で体験した2つの挫折

第1の挫折は、その企業の実力以上にモノやサービスが売れてしまった

ことです。その結果、経営者の自己過大評価が始まります。

会社の勃興期は、単にビジネスモデルの選択だけで成功できたのです。

従って、事業の才覚が乏しい“ヘタな経営者”でも成長できました。

戦略(ビジネスモデル)選択の勝利です。

まだ事業モデルの数が少なく、供給力を上回った巨大な需要が存在した時代

です。需要過剰の時代に事業を開始すると、競争もなく順調に成長し、いつ

しか、成長そのものが当たり前に思えてきます。

テレビがない時代にテレビを売ることを想像してみてください。

車がない時代に車を売ることを考えてみて下さい。

1960年代のスーパー、1980年代のホームセンターやコンビニはその代表的

ビジネスです。

毎年、毎月、当たり前のように予算が達成された時代です。

苦労して「売らなくても」、あっという間にモノが売れてゆく。

強烈で甘美な中毒的な体験が、企業全体に浸透しました。

この幻覚によって、組織は「売上」を一層軽視するようになりました。

予想を超えて売れ過ぎたために、そこで、自らの実力を錯覚しました。

ここから、失われた時代が始まったのです。

リストラされるのは経営者から

第2の挫折は、安易な管理志向に取りつかれたことです。

競争が急速に激化し、他方で、にわか景気の追い風がピタッとやんだ時、

彼らは困り果てました。今までと全く同じ売り方をしていても、今までの

ようには売上を伸ばせなくなったからです。

そこで彼らはこう考えました。

マーケットは既に飽和状態だ。

世の中、もうモノは売れない。

だから、これからはコストを見直そうという安易な解釈です。

徹底的に後ろ向きな発想ともいえます。

こうして、低成長の時代に浸透したのが管理型経営です。

経営の合理化とか近代化などといって、各社デスクワーク主流の経営に舵を

切りました。

売れない時代にあってもどうすれば売れるのか、という積極的なグループは

最終的に社内では少数派になりました。

コストやロスや生産性、あるいは、コスパを語ることが、スマートな経営と

みなされるような時代への突入です。

もちろん運営・管理のためのテクニックは、経営には必要です。

しかしながら、テクニック以前に経営を支える大黒柱である「売りまくる」

戦略こそが最優先されるべきです。

技術より戦略です。

戦略が弱体化すれば、成長も競争力も企業価値も期待できません。

もちろん給与アップも期待できないでしょう。

会社ってなんだろう

40年以上にわたって給料が上がらないのは、前記の2つの大きな挫折が

原因なのです。

マーケットや現場から遠ざかったツケです。

経営者とはチャンスを発見し、そこに挑戦するのが任務です。

貪欲に有望ニーズを探しまくり、そこを掘り続けてゆく。

マーケットチャンス争奪の競争から脱落した時点で、その会社の末路は

ほぼ決まりです。

いつの時代も主戦場“マーケット”をターゲットに据えて、モノを作ったり売っ

たりしてゆくのがビジネスです。既存のマーケットだけで不十分なら、その周

辺にも視野を拡大して、販売チャンスを見つけ出す。

業務範囲の拡大だけでなく、別事業への進出も視野に入れて「売り」を作る。

そのための最高責任者が経営者です。

在庫管理やリストラ業務を行うのは課長であって、社長ではありません。

株転がしや事業部ごとの切り売りも経営者の主業務ではありません。

それは財務担当課長の仕事です。

経営者不在こそが大問題

40年前の給与のまま、というのは経営者にとって自慢話になるのでしょうか?

経営者が本業を見失って、商品管理課長やリストラ・マネージャーといった

“パーツ”に成り果てていることこそが、経営危機なのです。

経営者はどこへ行ったのでしょう?

経営とは単純化すると、①稼ぐことと②管理することで成立します。

いうまでもなく主力業務は“稼ぐ”ことで、“管理”は補助にすぎません。

“稼ぐ”ことから全てのビジネスが始まるからです。

管理強化で、一時的に利益が上がった時期も昔はありました。

遠い遠い昔話です。

社長がもう一度、市場機会を徹底的に拾い出し、常に売上を追及する強力な

意識を回復しなければ、給与はアップしません。

給与の源泉である売上やシェア率が上がらないからです。

稼ぐ方法を最優先する経営者なくして、給料は変わりません。

40年間も給与が上がらない根本原因は、「管理」テクニックしか知らない

サラリーマン経営者にあるのです。

稼ぐための経営の原点を見つめる。

原点はあるのか、ないのか、それともずれているのか。

この着眼点が、仕事をするすべての方々に問われているのです。